復讐に生きることに決めた夫婦と死神の化学反応――伊坂幸太郎「死神の浮力」
伊坂作品特有のスケール、活劇、そして感動!
今回紹介する本は、伊坂幸太郎さんの「死神の浮力」です。
この作品には前作である「死神の精度」がありますが、
前作未読でも楽しめる内容になっていると思います!
前作も全体的にほっこりできる仕上がりになっているので未読の方は是非。
あらすじ
娘を殺された山野辺夫妻は、犯人の本城に無罪判決が下ったことに愕然とする。
犯人への復習を誓った夫婦のもとに、判決に対するコメントを求めるマスコミが押し寄せる中、自転車に乗った死神、千葉が夫婦のもとを訪れる。
死神の千葉は山野辺に「可」、「見送り」のどちらの処分を下すのか、
そして山野辺夫妻の復讐は成功するのか⁉
といった感じです。
みどころ
飄々とした死神と人間の夫婦とのやり取りが軽妙で面白い!
前作同様、死神の「千葉」が上からの命令で人間界に派遣され、七日間人間の様子を
見極めて死亡させる「可」か生かさせる「見送り」かの判断をするというのがキモ。
死神は割と適当で、軽く対象に接触しただけで「可」にする者が多い中、
千葉はしっかりと七日間対象のそばで観察したうえ、判断を下します。
真面目なんですね。可愛い。
今回は山野辺夫妻のもとに遣わされる訳ですが、前作と変わらず人間との軽妙な掛け合いがイイ。
死神は時代を問わず派遣されるので、大名行列の比喩を用いたら滔々と当時の参勤交代の様子を語りだしたり、武家諸法度を帽子の一種だと考えていた時期もあったりと、
死神と人間が違う種族で、人間の常識と死神の常識や考え方が違うことが感じられる描写が随所にあり、読むたびにクスっとなってしまいました。
もちろん身体能力も人間の比ではないので、その文字通り人並外れた身体能力が発揮される場面は痛快です。特にラストは必見。躍動感が半端ない。
それなのにミュージックが好きってとこのギャップが萌える。
またね、犯人の本城がどうしようもないクズなんですよ。
マリアビートルの王子の胸糞さに匹敵するくらい。
しかもかなり策を弄して追いつめてくる系の悪人なんで本当にタチが悪い。
こんな犯人に目をつけられた山野辺夫妻が不憫でならない。
ここまで吹っ切れているのでかなり山野辺夫妻に感情移入できると思います……
おわりに
夫婦の復讐という重いテーマを題材にしているにもかかわらず、人間の常識が及ばないもののなんか親しみが湧く死神というエッセンス、それに伊坂先生特有のスカした会話ややり取りを加えることで、何とも爽やかな後味のある物語となっております。
本当に伊坂先生が書く会話、カッコいいんですよね。
人間界にいるときは雨が降る死神の物語を、この秋雨の時期に是非。
それでは。